チェスタトンのブラウン神父連作の一番最初の作品の始まりは、空と海、波の色の対比から書き起こされている。
客船の入港風景を描いた水彩画にリボンがかけてあって、それがほどけると同時に、絵画が実物になり、動き出す感覚は、ハリウッド映画にすら優雅さがあった時代の、映画の始まりを思い出させる。
この始まりだけで、チェスタトンは読む者を作品に招き入れてくれる。まんまと惹き込まれてしまったら、後は不思議な世界をさまようだけだ。
翻訳で読んだ時には、この最初の感覚がつかめなかった。日本語にしようと思いながら読んでいるわけではないので、この視覚的な感覚までを訳せるものかどうかわからない。訳すだけで大変な、ニュアンスに満ちたチェスタトンの文章だから至難の技となるのは必定、あまりそういう事を考えないで読んでいる。
楽しみたいのだから当然だ。