2017年12月6日水曜日

婆さんは象徴ではないけど・・・

 つい先頃、女房が歩いていたら、ヨボヨボの婆さんが、両手に大きなスーパーの袋を持ってヨタヨタと進んでいたのが、ついに息が切れたか止まってしまったという。
 慌てて近寄り、声をかけると、
「あたしゃ人の世話になるのが嫌いだし、まだまだ大丈夫なんだよ」
 と意地を張っている。それでも荷物を持つと抵抗するわけでもないので二つの袋を持ったところ、後から来た若い男が、自分が持つと言って持ってくれた。
 そこで、女房は婆さんを支えて歩き出した。
 この婆さんはすぐ近くの四階建てのマンションの四階に住んでいた。四階建てというのはエレベータがないという事で、婆さんは両手に大荷物を持ち、階段を登るつもりでいたのである。
 そもそも、どうしてそんなに沢山買い込んでしまったのか、浅い疑問は次々と浮かんで来るが、婆さんの思い込みの前では、そのような疑問など消え去るのみ。ともかく、その場が無事におさまったのをよしとする他なかった。
 老婆は、まだ、自分は歩ける。天皇陛下と同じ歳だが、陛下がまだ頑張っていらっしゃるんだから、自分も平気なのだと、飛躍した論理を口走っていたという。

 今日、女房と乃木将軍は偉い人で、奥様の辞世の歌もいいなどと話をしているうちに、ふと、その婆さんを思い出した。
 陛下の退位の決意は、私たちにその存在を強く意識させた。陛下の御退位と婆さんのむやみな自立心が重なり、わたしたちをはさみこむ。