トゥーツ・シールマンスは素晴らしい。ハーモニカをあのように演奏できるなんて信じられないほどだ。いつ聞いても浸りきってしまうので、どうでもいい時には耳に入れないようにしている。至高の音楽だと思う。
小学校の音楽の時間、ハモニカをやらされた。何だかよくわからずにブカブカ吹かすしかなくて、とてもつまらなかった。大体、家族で出かけた時、盛り場などに傷痍軍人がいるととても怖かったが、彼らがアコーディオンやハモニカを演奏していたので、楽器も怖かった。
つまらなくて、怖い。しかも、何が何だかわからない。嫌な時間だった。
先生サマもつまらなかったのだろう、ロクに教えもせずに、ただ吹けと言うだけだった。(後でやったスペリオパイプもそんなだった)
学年が上がって、ハモニカから解放された頃だった。
「アレ、嫌だった。泣いちゃったよ」
と、ポツリと言った奴がいた。
運動神経が良く、野球も上手い、人気のある奴だった。
え、こいつが泣くなんてと、ショックを受けた。
ハモニカは嫌いだった。ずっと嫌いだった。泣きはしなかったけど、たしかに泣きたかった。泣いた奴の気持ちは痛いほどわかった。
ハモニカを嫌いにならないためには、学校でやらない事だ。スペリオパイプもやらない方がいい。うーん、音楽の時間なんていらないかもしれない。どうせ、ヨーロッパのどこかでやるコンクールに行く人は、学校なんかとは無縁に稽古してるんだ。
英語も同じだ。学校でやっても嫌いになるだけだ。
学校では、読み書きと四則演算が出来れば十分だ。後はやりたいなら、専門課程に行ってやる方がいい。
ブルースとシールマンスを知らなければ、今でもハモニカは嫌いだったろう。無残な事はするもんじゃないよ。